18ヶ月の法則
「ある特定の自己啓発書を購入した読者は、直近18ヶ月に別の自己啓発本を購入している可能性が最も高い」
出版業界において自己啓発は定番ジャンルです。書店の本棚には、日々の生活に満足できない私たちを鼓舞し、次のステージへと高めようとする言葉のタイトルや見出しが飛び交っています。ビジネスやスピリチュアル界隈において、「マズローの欲求5段階説」といった自己実現のセオリーが人気なことからもわかるように、自由に開放された個人は、自己実現の追求を人生の究極目的と思い込む傾向があります。
しかし、このようなジャンルに胡散臭さや薄っぺらさを感じる読者は多いようです。実際、自己啓発書には、「言うは易く行うは難し」の成功談をまとめただけのものや、使い古された人生の知恵や行動パターンを何度も焼き直しているものが多いことも事実です。自己啓発業界の欺瞞を指摘したイギリス人ジャーナリスト、オリバー・バークマンは次のように書いています。
我々が本に収まるサイズにきっちりまとめられた解決策に憧れてしまうことは理解できるが、包装を取り払うと、そのような作品のメッセージがしばしば凡庸であることに気づく。『7つの習慣/原題:The Seven Habits of Highly Effective People』は基本、人生で自分にとって最も重要なことを決め、それを実行しろと教えているだけである。『人を動かす/原題:How to Win Friends and Influence People』は読者に不快ではない快い人との接し方を説き、ファーストネームをたくさん使うよう勧めているだけである。この数年において最も成功したマネージメントの教科書のひとつとなった『フィッシュ!:鮮度100% ぴちぴちオフィスの作り方/原題:Fish!』は職場における幸福と生産性の促進を目的とするものだが、その提案は、最も勤勉な従業員におもちゃの魚を配ることを勧めるといったものである。1
(オリバー・バークマン『HELP!「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案/原題:The Antidote』)
ベストセラーリストを眺めると、新刊、ロングセラーを含め、このような本が書架に並び続けていることがわかります。
アメリカの出版業界には自己啓発書の購入層について、「18ヶ月の法則」と呼ばれる法則があります。
現代における幸福の追求を神格化した自己啓発本が、実際には我々を幸せにはしないものの一つであるということは、恐らく言うまでもないことだろう。念の為に言っておくと、調査結果も自己啓発本が役に立つことがまれであることを強く示唆している。これが、自己啓発本の出版社に、「18ヶ月の法則」という言葉を使うものがいる理由である。これは、ある特定の自己啓発書を購入した読者は、直近18ヶ月に別の自己啓発本を購入している可能性が最も高いという法則である。明らかに、彼らの問題は解決していないのである。2
(オリバー・バークマン『HELP!「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案/原題:The Antidote』)
要は、読者の悩みは、自己啓発書が奨める問題解決法で解消するものではないということです。自己啓発ビジネスは、自らが提供するソリューションが根本的な解決をもたらさないことを知りつつ、解決しないからこそ増え続けるリピーターを相手にお金を回すシステムを作り上げていると言っても過言ではありません。
とはいえ、上に挙げられた自己啓発書やその他の類書は世界中で売れロングセラーであることからも、一定の価値は提供していると考えられます。ある特定のパターンにはまった行動を繰り返す集団をながめ、それを愚衆と一蹴することは簡単です。一方、多くの人々の琴線に触れるものごとには、何らかの共通項や法則性を探る手がかりがあると考えることもできるのです。
定期的に同じような自己啓発書に手を伸ばしている自分に気づいたら、一、二年前に手にしていた本の主旨をふり返り、そのような情報が自分を良い方向に改善することに寄与したかについて、振り返ってみるべきでしょう。今自分に必要なのは、既に学んだことを繰り返すだけの、新しい自己啓発書を積み続けることではないことに気づくかもしれません。
2 原文:Perhaps you don’t need telling that self-help books, the modern-day apotheosis of the quest for happiness, are among the things that fail to make us happy. But, for the record, research strongly suggests that they rarely much help. This is why, among themselves, some self- help publishers refer to the ‘eighteen-month rule’, which states that the person most likely to purchase any given self-help book is someone who, within the previous eighteen months, ,purchased a self-help book — one that evidently didn’t solve all their problems.
出典:
オリバー・バークマン『HELP!「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案/原題:The Antidote』
自己啓発のベストセラー:
『7つの習慣/原題:The Seven Habits of Highly Effective People』